第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
臨月を迎えた妹は、日を追うごとに弱っていった。産まれて来ようとする胎児に身体がついて行けてない。そんな感じだ。
「ちっちゃな頃は木登りしたりかくれんぼしたのに」
流石、我が妹。というくらいやんちゃな子供時代だ。兄と手を組み子供ならではの悪戯や近所が大騒ぎする位のとんでも事件をやらかしていた兄と姉の後をついて回っていた。まぁあの子の場合大概事件を起こす側だ。
木登りして降りれなくなったり、近所の悪ガキに川に落とされてしまったり、兄と一緒に件の餓鬼は私が返り討ちにしたが。
そこまで体の弱い子ではなかったはずだ。
飲まされたという薬とは別に精神的な面もあるとは思う。
優しく、芯が強いあの子が憔悴しきっていた。村の人や私の前では気丈に振る舞うも、ふとした時に遠くを見て寂寥感に満ちた顔で音にならない誰かの名を呟く。
妹は贔屓目無しにしても、気品に溢れ、優しく、私に似て聡明で何より美しくなった。
愛する人がいたからこそ、恋をしたからこその美しさ。それに関してはとても喜ばしい。が
何処のどいつだ。何様だ。うちの妹、孕ませた挙句手放すとか、つーか、兄貴がいて何だってこんな事に、
そいつ、ナンボのもんじゃ。
と片親についての罵詈雑言が幾度も思い浮かぶ。
気分を変えて薬について考えても最終的には何処ぞの馬の骨がしっかり妹を守らなかった結果だという結論になり、怒りが浮上してくる。
「こんな事なら兄貴とも文通しておくべきだった。」
今からでも間に合う、か。いやいやあの馬鹿が何の役に立つと。
こんな事なら自分の事は放って妹の側についていてやるべきだった。そうすればあの子も恋に悲しむ事はなかった筈。
否、何も悪くない。恋をして、子を宿す事が出来てステラは良かった筈だ。そうでなければあんな風に優しくお腹を撫でる事はない。誰のせいでもない、言うなれば運命だったのだ。片親の所為でもきっとない。
今自分に出来る事をしなければ、滋養の為王都の食材を買い漁るとしよう。
「お前、ステラか?」自分以外で聞いた妹の名に反応してしまった。
見たところならず者といった出で立ちの破落戸かぶれ。発音はこの国とも祖国の訛りと少し違う。
ゆっくり口を開く。