第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
「・・・・はぁー」
深い溜息が溢れる。
「薬師様、お連れ様の具合は?」「あ、あぁ。今は落ち着いてる」
あの後、糸が切れる様に眠りについてしまった。妹だとは伏せた。掻い摘んで説明を受けたがその方が良いだろう。
「しばらく厄介になりたいのだけど」「構わんよ。ここの連中は訳ありの人間が多いし、家は人が居なきゃ廃れていく。何もない村だが、あのお嬢さんにとってそれが癒しになるかもしれない。他所から人が来れば直ぐ解る。」
何もないと言っているがこの辺りの野草は効用が高いものが多そうだ。私としてもこの村は興味深い。
唯、
「何日か定期に王都に行かないとな。研修に関してはこの村の自生植物の研究資料でチャラになるとはいえ報告は自分でしないと」
正直な話。とても面倒臭いが妹を拐かした連中が彷徨いている可能性もある。
「せめて、あの子が言ったように顔や目の色が変えられたならな」
そうすれば少しは安心して王都を見て回れる事だろう。祖国にはないたくさんの不思議なものがある。
見れば妹の心も少しは和らぐだろうに、
「おう、薬師様。お嬢さんの具合はどうだい?ガキがいるんだったらしっかり食べさせてやれ。」
「わかってるわよ。お節介だなぁ」
「そうは言ってもだ。あのこの旦那。あんなヒョロッちいお嬢さんを一人残して遠くに行っちまったんだろ。とてもじゃないが同じ男とは思えんな。」「同じ女としても許し難いね。うちの亭主だったら7発殴ってそのまま肥溜めに頭から突っ込んだら」
物騒な事言っているが確かにそれくらいしないと気が収まらない
「まさか罪を犯して流刑とか?」「孕ませた挙句、責任取る気がなく捨てたとか?」
「どっちにしろ滋養あるもの食べなきゃダメだろ?これ良ければ渡してくれ。」
子牛の肉らしい。病人に勧めるのがまず肉とか、と思うが好意は有難くいただこう。
昔、集会所として使っていた屋敷を建て替え宿屋にした家に今は住んでいる。何年か前にこの家の主が嫁ぎに村を離れた為に空き家となったらしいのでまだ新しく、このまま廃屋にして置くのはもったいない。
一番日当たりの良い場所で寝ている妹の顔は白く、生気がない。
「・・・ぁ・・・さま」
微かに溢れる寝息と共に誰かの名が紡がれるも聞き取れなかった。