第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
閉ざされた部屋の中で私の大切な宝物は少しずつ、成長していった。私が腹部を撫でると元気に蹴り返してくれる。
しかし、元気なお腹の子とは逆に私の心と身体は少しずつ壊れていった。
毎日監視とばかりに決められた時間に訪れるこの屋敷の主人や執事。部屋には本も何もなく机があるだけ。
もちろん、頼めば用意して貰えるだろうがこの屋敷の人に頼りたくはなかった。
悪阻のためなのか、心が沈んでいるからなのか、食事も喉を通らない。それでも薬だけはちゃんと飲んでいた。
貧血の薬だというがそれを飲むと意識がなくなる。その上身体が動かなくなるもこれも契約の一部の為飲まなければいけない。飲まないでいた際無理矢理口に流し込まれた。
この子はこの屋敷でこうして過ごさなければいけないのだろうか?唯、私とアノ人の血を継いで産まれた為に、あの公爵夫人に見つかったせいで。
深い溜息を溢し部屋を出る。今日は定期健診の日で、その日だけ執事が同伴するが僅かな時間だけ屋敷の中庭に出られる。
フラつく身体で長い回廊を歩くが普段通らない道だ。
「あ、あの」「・・・・。」
声をかけようとしたが、此方を鋭い目線で睨まれ口を閉ざす。
辿り着いたのは屋敷の裏門。
「どうか、お逃げください。」「・・・え?」
「私はヨハンナ様の話を聞いてしまったのです。」
お祖母様、本当に私がゼノ様の花嫁になれるの?
ええ、なれますとも。プリンセスの子を使えば、これから生まれてくる子供も王宮にお連れして、その子供の養母として馳せ参じれば、あの国王陛下も無下には出来ますまい。
でも、陛下が信じるかしら?プリンセスは生きているしその子供がゼノ様やプリンセスに似てるとは限らないでしょ
その時はあのプリンセスの遺体も一緒にお見せすればいいのよ。どの道産むまでの命、最後まで利用してあげましょう。あの国王陛下も理解する事でしょう身分というものがいかに大事か。
「幾らお家の為とはいえあまりに非道な行いです。許して頂けるとは想いません。どうかお逃げください。御子の為にも」
背を押され、そのまま走り出す。身体は重くフラつく、けど振り返る事なく走る。その願いに応える為。