第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
「でも、唯、殺すならすぐに出来るけれど、貴方は今、とてもよい道具を持っている・・・。」
『道具』その言い方に不快感を宿しながらも腹部に手を添える。
「その子は今は唯ひとり国王陛下の血を受け継ぐ御子。唯一シュタインの王室の直系・・・。」
「あなたの孫が婚約しているならその子に産ませればいいでしょ!?」
婚約されたのならこの先アノ人に愛してもらう事が出来るでも、私にはそれも叶わない。
なのにこの御仁は唯一残された宝まで奪おうと言うのか。
「私の孫が男の子を産めるとは限らないし、今は寵愛を受ける事すらままならないの、お前の所為で・・・、だからね。貴方の子が必要なの」
笑顔で優しく頬を撫でられる冷たい指の感触にゾッとする。
「あなたが子を使って王宮に戻らない保証も、仮にあの方があなたを見つけられないという保証もないの。だったらいっそ、囲って、貴方の産む子供をつかって乳母としてお前をここに置いてもいいのよ。来たるべきときには王宮に行かせ、後見人と養育者としてうちの孫をもう一度陛下に娶らせるけど・・・。」
まさしく、この人にとって私の存在もお腹の子も『道具』なのだ。
「プリンセス、何か勘違いをしているようですが貴方に拒否権はありませんわ。だってそうでしょ?
知り合いも伝手もない、そんな女が身重の体で何が出来るというの?
自分勝手な理由で陛下の大切な御子を殺してしまうのかしら?」
「・・・・。」
「まぁ、賢明な判断ですこと。それではお部屋に御戻り下さいませ。必要なものは呼鈴を鳴らせば執事が用意してくれますわ。」
案内された部屋は品の良い調度品が置かれた小部屋。窓は小さくそして格子が付けられ、扉には鍵がかけられている。
まるで牢獄か、部屋飼いの動物の様な扱い、格子戸の向こうの空には一筋の星が励ます様に煌めいていたがけして気分が晴れる事はなかった。