第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
今から、およそ6年前の夜。 夢うつつにみたのは真っ白な狼。
ひと目見た瞬間、シュタイン城に滞在した時に見た絵本を思い出した。
その狼が、あまりに人間くさく、あまりに浮世離れしていたからだろう。それこそ夢の続きに思えたのだ。
「ゼノ様、また、迎えに来てくれたのですか?」
あの夢の中で人の姿になって私の手を引いてくれた愛しい人。
狼の姿はあの人の瞳や髪とは正反対の色だかこちらを見る優しい眼差しに既視感を覚えた。
お怪我をしていると聞いた。だからきっと私に心配をかけまいとこうして狼の姿をして夢の中まで会いに来てくれたのだろう。
それとも会いたい。迎えに来て欲しいと願う私の心を感じて、頭が勝手に見せているまぼろしなのか?
手を伸ばす私をジッと見つめる狼。その目は何か問いかけているようだ。
まるで、『本当にその願いでいいのか?』
そう聞いているように。
答えとして優しく微笑んだ。
遠吠えがとても近くで、確かに聞こえた。
次に見たのは独特の模様の天幕だった。
身を起こし状況を確認しようとしたが、身体が酷く重く痛みが走る。
「気がついたかい?」
嗄れた声が聞こえた。見知らぬ老婆が少し厳つい顔をしてそう言った。
「あの森を抜ける他所者がいるとはね。神様の遣いか悪魔の悪戯か、まぁ構やしないがね」
森、そうだ。私は森を彷徨っていたのだ。何日も
「あの、此処は?私と一緒にいた馬は??」
「ここはアルス国の辺境の村。あんたの馬ならいま外に繋いでいるかなり衰弱していたがあと何日か安静にしてれば大丈夫だよ。」
「そうですか。ありがとうございます」
アルス国、聞いたことのない地名だ。私は何日彷徨っていたのだろう?私はどうやってあの森を抜けたのだろう、記憶が随分と曖昧だ。
「随分汚れているがお前さん、名前は?何処から来た」
恩義がある人に名を告げるべきだろうが 自分にはもう帰る宛がない。森で会った野盗達がもしかしたらここに来るかもしれない。迷惑はかけられない。
私は目の前に立つ老婆に微笑みを返した。