第5章 番外編 小さな王様の観察日記
今日はやつがれとルプスの出会った時の話をしようと思う。
やつがれがルプスと逢ったのは森の中だった。やつがれはどの木で育ったのか母がどんな人か兄弟はいたのか、それすら知らない。
気が付けば森の中で蹲っていた。やつがれは森の神と同じ曇りなき白き体毛と陽光のごとき金色の瞳をしていた。
物珍しさか憐憫からか森に住む同胞たちがやつがれに食事を届けに来てくれたこともあったが、
幼い身とはいえ誇り高き鷲であるやつがれは施しを受けることは矜持が許せない。
施しを受けるという事はそいつに『服従する』という事。餓えを満たすためだけに誇り高い魂を捧げるつもりはなかった。
その身を噛み飢えを紛らわしていた。何日も何日も
『やつがれは何の為に生まれてきたのだろう?』そう考えながら、施しを受ける事をせず、かといって死を迎えるつもりもなく、ただ餓えを紛らわす為身食いを続けた。
飢えが限界に達し、このまま神の元へと向かおうかとも思っていた時に、ルプスに出会った。
やつがれとは違う陽光が消える時刻の空の色の体毛と深い紫の瞳。対照的な色をしていたのにまるで森の神の様に見えた。
あの小さな手がやつがれの傷ついた体を優しく抱え上げてくれた時に確信した。
『やつがれはこの子の為に生まれてきたんだ。』
一緒に生きるために・・・。
こうして、やつがれはルプスの傍にいるようになったのです。それからの毎日はとても幸せな日々だ。
やつがれは今まで貰ったご飯を食べる事はなかったが、あの小さい手で差し出された食べ物をチョンと抓む様に食べるととても喜ぶのだ。
やつがれが後を飛ぶように追うと少しだけ歩みを早め笑うのだ。
やつがれが野兎を仕留めると優しく頭を撫でるのだ。
やつがれはルプスがとても好きなのだ。
何より喜ぶのがやつがれが蒼穹を高く飛び上がる時だ。
身食いして一度はぼろぼろになったやつがれの羽は怪我など一度もしたことがないようにとても高く遠くに飛ぶことが出来る。それが何より誇らしい。
あの子が望むならやつがれは天際をこえた星の道すら自在に駆け抜けるだろう。