第4章 導きの星は誰を照らす
丘の上の泉はとても美しかった。色とりどりの素朴ながら可愛らしい花が咲き、大きな一本の樹は、春になると薄紅色の花が咲き、儚げながら散るさまは一際優美なのだ。と女性は話してくれた。
水面に浮かぶ睡蓮は夏の暑さを忘れさせる爽やかな香りがする。
「ここは自然の薬草園でもあるんだ。大概のものはこの泉の周りで取れる。シロツメクサ、睡蓮、ハマスゲ、クレソン、セージ、薄荷、薊に蓬、あと筑紫やら、山じゃないけど、この辺はそれなりに標高が高いし、季節ごとの温度差が凄いからワサビや竜胆とかもある。この辺の草は大概食べれる。」
顔に似合わずかなりワイルドなこと言っている案内役さん。
儚げな印象だが、男の子っぽい口調にすこし驚いていた。
「まぁ、この辺の民家は大概必要なもの自分で作ってるからそうそう取りに来たりしないけどね・・・おかげで手つかずだけど、その辺の薬草が泉に入って効能が溶け出しているから天然の薬になってる・・・だから、ほら」
指差す場所には手負いの獣が水を飲んだり体を泉の水で洗ったりしてる。
「天然の療養施設ということもあって人の出入りも多いから獣も人を怖がらない。」
不思議で幻想的な風景に絵を描く手が止まることがない。
「ありがとう。素晴らしいところに案内してくれて、しばらくはこの村に滞在させてもらうよ。
僕はロベール=ブランシェ
この村の宿屋に間借りさせてもらうつもりだから、良かったら絵を見に来てよ。村の事も案内してほしいし」
その言葉に少し固まったように見えた。
「ありがとう・・・でも、案内は無理かも・・・忙しいから」
そう言ってそろそろ仕事に行かないとと笑って挨拶をして立ち去ろうとするのを、手を取って止めた。
その手は驚くほど冷たかった。よく見ると先程まで溌剌として薄紅を差したような頬は、青白く血の気がない。
「君、大丈夫??顔色が悪いよ」
「へーき・・・いつもの事だから、家に、薬があるので」
そう言って手を解き歩こうとするが足元がおぼつかない体が大きく仰け反るのを見て慌てて駆け寄り支える。
額は熱を帯びている・・・医者に見せた方がいい。そう思い抱き上げようとしたが、
「お前!!ははさまに何をしてる!!!!」
目の前に幼き日の教え子にそっくりの少年がいた。