第4章 導きの星は誰を照らす
目を開けると6年間使っている私の部屋の天井があった。
体は重く、熱を帯びているのかボォッとする。
「ん・・・スゥ・・・スゥ」
小さな子供が私の膝にもたれかかって寝ていた。ぷっくりとした白い頬には幾重にも涙の跡が残っていて実に痛々しい。
「なんて、酷い・・・」
この子の存在を夢だと思うなんて・・・・。
そればかりか愛しい人と重ね合せるなんて・・・自分の子なのに
なんて罪深い・・・、
なんて恐ろしい悪夢だろう・・・。
太ももを伝う粘着質な液体に言い知れぬ不快感を感じ、ベッドに俯せって寝ていた子供を抱え、ベッドに乗せると
シャワーを浴びに部屋を出て行く。
冷たい水に打たれ、体が冷えた後もベッドに戻る気になれず、外に出る。
夜明けが近いのか、外は薄日が差し、村のすぐそばの小高い丘を幻想的に照らす。
薄霧に包まれた泉と花園は幻想的だが、心は晴れなかった。それどころか罪の意識を深く抱かせる。
こんなこと一度としてなかった・・・。
ウィスタリアから戻った愛しい子は恐ろしい位愛しい人に似ていた。日増しに年を重ねるごとにその容姿が仕草が愛しい人に近づいていく。
嬉しくもあり、恐ろしい・・・。
一緒にいてもいいのだろうか、離れるべきだろうか
どちらをとっても平静ではいられなくなる。
いつかは手放し別れる時が来る、わかっていた筈なのに、それがすぐ近くまで来ていると実感し哀しみがよぎる。
声を押し殺して泣く・・・・願いの代償の重さに失ったものの大きさに・・・・叶わぬ願いの辛さに・・。
どれだけそうしていただろう。薄霧が朝日に照らされ少しずつ晴れてきている。もう、戻らなければ、そう思って立ち上がる。
ふと村の方からこちらへと向かってくる人影。
大きな画材を持っていた・・・傾斜はそれほど高くない丘だが、あんな大荷物を持っていては辛いだろう。
「お持ちしましょうか?」「あぁ、すいません」
そう言って画家は柔和な笑みを浮かべた。色素の薄い亜麻色の短い髪をなびかせ、琥珀色の眼を和ませる。
「あ・・・。」「ん?あれ・・??きみは・・・?」
6年前に庭先であった時と変わらない、幼き日の先生
ロベール=ブランシェの姿があった。