第1章 アネモネとキス。
「っ、いつ、起きたんですか?」
「…、君が髪を撫でたとき」
密さんの言葉に、かぁっと顔に熱が集まる。ということは全てバレていたわけだ。治まりかけていた心臓の鼓動は再び速さを取り戻し、自分の行いを思い出してじわりと視界が歪んだ。とんでもないことをしてしまった。頭の中が真っ白になり言い訳も思いつかない。
「起こしてくれるんでしょ」
「あ、の…それは、」
「キスで」
「………」
責められると思ったのに密さんは目を閉じた。それから何も言わず、少し間を置いて寝息が聞こえてきた。うそ、このタイミングで寝るなんて。手は掴まれ、腰の手もそのままに密さんは眠ってしまった。
そういうことで、いいんだろうか。目の前の整った顔をじっと見つめる。チャンスは今しかない。それでこの先どうなっても。
構わないと、密さんにキスをした。
触れるだけの、一瞬のキス。のはずだった。触れた瞬間密さんの目がぱっと開き、手を掴んでいたはずの密さんの手が後頭部に回った。離れられず、息も出来ない。酸素を求めるように口を開けば待っていたかのようににゅるりと舌が割り込まれた。逃げるように引っ込めた舌を絡め取られ、口の端から唾液が零れる。
「ん、ふっぅ、…っ、」
くぐもった声が漏れ、頭が麻痺したようにぼんやりする。腰に回された手が服の下に滑り込むと直に肌を撫でられ小さく体が跳ねた。
数秒なのか、数分なのか。長く感じるほどのキスは密さんが後頭部を押さえる手の力を弱めてようやく終わった。互いの唇を唾液の糸が繋ぎ、ぷつりと切れたそれを密さんの舌が舐め上げる。ぼんやりとしたまま、夢だったのではないかと思考が定まらない。
僅かに体を起こした密さんに何度か啄むようなキスをされてはっと我に返った。
「ぁ、の…ひそかさ、」
「…オレ部屋に戻る」
「あ、…そ、うですね。おやすみなさい」
「おやすみ」
最後に私の頭をくしゃりと撫でて密さんは談話室から出て行った。一人きりになって、冷静に先ほどのことを思い出して一人身悶える。触れ合うことすら叶わないと思っていた密さんとあんなこと。頬を抓ると確かに痛くて、やはり夢ではないと実感する。唇に残る感触と腰の温もりに笑みが零れた。もしかすると、もしかするかも知れない。
思い出したようにその日の仕事を終わらせると自室へと戻った。
