第1章 アネモネとキス。
翌朝。劇団員たちが起きる前に起き、身支度を済ませて朝食の用意をする。準備を終え食卓についた人に順番に朝食を出していると談話室のドアが開いた。誰が起きてきたのか確認する為にドアの方へと視線を向けると密さんが立っており、昨日のことを思い出して顔が熱くなる。
「あれ、密今日は早いね」
「うん」
声を聞くだけで心臓が騒ぐ。顔を洗う為に洗面所へ向かう密さんへ、深呼吸をしてから声をかけた。こちらへ視線を向ける密さんにぐっと息が詰まる。
「おはようございます。…その、ご飯は」
「…君が作ったの?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ食べる」
眠そうに大きなあくびをした密さんがそう答えて背中を向ける。いつも通りで安心したのか、少し寂しいのか。でもみんなもいるしいつも通りじゃないと困る。密さんに出すご飯の用意をしようとこちらも背中を向けたところで、背後の密さんが「あ」と声を漏らした。気になって振り返るとこちらを向いていた密さんと視線が交わる。首を傾げると、密さんが僅かに屈んだ。そして、唇が触れ合って。
「え、」
「おはよう、はる」
ふわりと微笑んだ密さんはそれだけを言い残すと洗面所へと消えていった。そして密さんがいなくなった談話室には、一瞬の間を置いて団員達の驚きの声が響き渡ったのでした。
了。