第4章 風邪を引いた日のとある日常。
ふわりと花のような優しい香りが鼻孔を擽る。大好きな紬さんの匂い。押し付けられるように唇に柔らかい感触が乗りぶわっと幸福感に包まれた。頬に置いていた手に紬さんの手が重なり、指が絡まりぎゅっと握られると顔の横へ置かれる。触れ合っていただけの唇から舌が伸びてきてとんとんと舌先で唇をノックされた。ゆっくりと唇を開くと隙間から舌が入ってきてにゅるりと絡め取られる。角度を変えて深くなる口付けに呼吸もままならず、握られたままの手を強く握り返した。
「―――はる?」
不意に部屋のドアが開き、大げさなまでに紬さんの肩が跳ね唇が離れた。ドアの向こうから顔を覗かせた万里くんが訝しげに私を呼び、真っ暗だった部屋の電気が点けられた。ふわふわと定まらなかった思考が急浮上し、先ほどまでの出来事が夢ではなかったことを叩きつける。唇に残ったままの熱と感触が生々しいまでに羞恥を煽った。
「あれ、紬さんもいたんすね」
「あー、様子を見にね。タオルを変えてあげようと思って、…はは、」
「…ふーん」
気まずそうに苦笑を浮かべた紬さんは私に一声かけてから額のタオルを取り、足早に部屋から出て行った。夢だと思っていたからあんなことしたけど、まさか紬さんからキスしてくれるなんて。布団を頭まで被って身悶えていると思い切り布団を引きはがされた。呆れ顔の万里くんが大きな溜息を吐く。
「左京さんが汗掻いてるだろうから着替えさせろって」
「あ、りがとう」
「紬さんとなにがあったか聞いてやろうか」
万里くんの言葉にだらしなく頬が緩む。以前から万里くんには紬さんのことでいろいろと相談していただけに、言いたいし聞いてほしい。胸倉を掴む勢いで起き上がり、目の前がぐらりと揺れて万里くんに凭れるように倒れ込んだ。