ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第5章 関係が変わる話
ぎゅうぎゅうと桜の胸元に擦り寄って甘える男にぎょっとして周りを見渡せば、動画や写真を撮る人の姿が目に入り、慌てて顔を伏せる。
「ヴィクトル、皆が見てるから、ね?」
「……やだ、離れたくない」
「こんなの他の人に噂されたら困るでしょ?夜行くよ、あなたの家。ちゃんと行くから頑張って?」
「………分かった」
正直ヴィクトルとしては桜と噂になってもいいと思っていたし、むしろそうなった方が彼女の虫除けにもなるとも思った。
しかし困らせるのは本意ではない。
「すまない、少し立ちくらみがしてね、心配してくれてありがとう」
ファンサービスの時に浮かべる完璧な笑顔で周りに聞こえるようにそう言えば、近くの男性も女性もみんなが心配して彼に群がった。
その隙をついて桜はヴィクトルから離れると、こちらを伺っていたヨハンに「勝生選手と喧嘩したのかな?ちょっと参ってたみたい。もう大丈夫みたいだし帰るね。荷物見ててくれてありがとう」と話を作って家路についた。
念のため、ヴィクトルに夜の8時に行くからとメッセージを、送りその時間になるまで母の手伝いや、大学の課題をして、彼の元に行きたいと逸る気持ちを押さえつけた。
「そう言えば鍵返してなかった」
チャイムを押すべきか、はたまた鍵を使うべきか躊躇っていると、目の前の扉は開かれて「どうぞ」と、中へ促される。
「抱きしめてもいいかい?」
「ちょっと待って、心の準備をするから」
さっきは勝手に抱きしめてしまったが、怖がらせてはいけないとヴィクトルは自制して尋ねた。
すると桜はそう言って2、3度深呼吸をしてから小さな声でどうぞ、と伝えた。
「桜、ごめん、ごめんね。俺桜にたくさん酷いこと言って、痛いことした。許してなんて言わない、でもお願い、俺を嫌いにならないでっ」
ぎゅう、と、しかし決して痛くも苦しくもない力加減で桜を抱きしめたヴィクトルは懇願するようにそう言った。
「愛してる、ユウリじゃない、桜を愛してるんだ…」
その言葉に桜の心臓はトクリと高鳴った。