第1章 日常
「カンパーイ!お疲れ様でーす!」
カチン、とグラスのぶつかる音を何度か繰り返し冷えたアルコールを喉に流し込む。
仕事終りに職場の仲間との飲み会。
仕事の愚痴、世間話、恋愛話…女子会の話は尽きることない。
「高野さん、飲んでますかぁ?」
後輩が上機嫌で話しかけてくる。
「飲んでるよ~。」
私は飲んでいたグラスを持ち上げ答える。
私、高野 奈帆。39才。
医療事務歴19年、独身、彼氏なし。
いつの間にか仕事仲間は年下ばかり。
結婚しては辞め、新しく入ってくる子は20代前半の若い女の子。。。
かなり年上のお局様ポジションだけど、嫌われてはいない…とは思う。
「高野さん、今度一緒に合コン行きましょうよー!」
「え~っ。嫌だよー。」
「なんでですかぁ?」
「もう今更、知らない人と飲み会して“初めまして~”とか面倒くさい。」
「そんなこと言って~それじゃ、いつどこで出会うんですか?」
「ないから、こうなんでしょ(笑)」
「笑い事じゃなくて!あっ!!もしかして本当はいい人いるんじゃないですか?!」
「いない、いない。私はコンサート行ったり、スポーツ観戦したり、マンガやアニメ見たり好きなことして楽しんでるからいいの。」
そう…面倒くさい。ホント面倒くさい。
だからと言って、他に出会いがあるわけでもないから今に至る。
結婚したくないわけじゃない。
彼氏がいらないわけじゃない。
早く親を安心させて、孫の顔を見せてあげたい。
でも…もう彼氏いない歴5年。
恋の始め方すら忘れたのかも。。。
誰にも気付かれないように、ふぅ…と短いため息をこぼしテーブルの反対側の新入社員の方に目をやると、いつの間にか隣の席の男性のグループと話が盛り上がっている。
なんか、嫌な予感。
「じゃぁさ!!一緒に飲もうよ!!ねっ!!」
そう言って、隣の男性たちはテーブルをくっ付けて更にーーー
「せっかくだから、席も入れ替えようよ!!」
あぁ…やっぱり。。。
面倒くさい展開に。。。
はぁぁぁぁ~
露骨に顔に出そうになった時ーーー
「ここ…いい?」
上からした声に慌てて顔を上げた。
「あっ!どうぞ。。。」