第28章 綻び(1)
「はぁ……はぁ………」
天主まで走ったものの、どんな顔をして会えばいいか分からない。
(私が大名を庇う前も、避けられてたし………)
(でも、とりあえずお礼を……それに、ここに残りたいって、言わないと………)
躊躇いながらも、思い切ってえい、と襖を開けてみる。
信長様は、床机に体を預けて盃を弄んでいた。
何も映していないような瞳と物憂げな顔に思わず見とれていると、
ふと、その顔がこちらに向く。
信長様は一瞬、本当にほんの一瞬だけ、目を見開いたあと顔を背け、何の感情もないような声で言った。
信長「………目覚めたのか。」
「……!…は、い……」
うまく声が出ない。
「……………」
信長「……………」
気まずい沈黙が落ちる。
それでも、
「ありがとう、ございました……それと、その…すみませんでした………私………」
信長「………秀吉か」
「……え?」
信長「秀吉から、聞いたのか。」
「は、はい……」
信長「…猿め。余計なことを………」
信長様は文句を言ったあと、こちらを見ずに続けた。。
信長「……二日、遅れたが、間に合うだろう。今夜中に準備し、京へ向かえ。」
(………!)
やっぱり、信長様は私を帰そうとしている。
「あのっ、信長様、その事なんですが、私は……」
信長「何だ。」
その威圧感に言おうとしていた言葉が溶けて消える。
「………」
信長「分かったらさっさと部屋へ戻れ。そしてついでだ。秀吉を呼んでこい。」
「……わかり、ました…………」
私は何も言えずに部屋へ戻り、
その後信長様に言われてやってきたのだろう女中さんに手伝われて、
未来へ帰る準備を終えた。