第17章 ×××の独話
一生懸命に囲碁を打つ舞を眺めるのはなかなかに心安らぐ一時だった。
負けて俺に身体の一部を奪われ
その度に涙目になり睨みつけるその姿を見るのは
戦に勝ち領土を得た時と同じくらいかそれ以上に満たされる何かがあった。
この間、奴が俺達に作ってきた羽織はとても丁寧で
そして何より着る者のことを考えた代物だった。
(……そういえば御守りの礼を言うのを忘れたな。)
羽織を良く見ると不自然な隙間があり、中に御守りが入っていた。
(あれは少し驚いたな。未来の知恵なのだろうか。中にちょっとしたものを入れるのにも役立つ。次に着物を作らせる時に尋ねてみよう。)
………その後、
戦に連れていくと言った時
文句一つ言わなかったのは驚いたな。
奴なりに色々と考えたのだろう。
愚かなくらい迷いがない目をしていた。
………だから少し心配になったのだ。
この乱世において迷いのない目はすなわち死の覚悟だ。
そして気づいた。
俺は奴に死んでほしくないと思っている
それだけではない
そばにい続けてほしいと思っている、と。
(……奴がそばにいると妙に気が安らぐのだ。)
今まで何千何万と人を殺してきて
たった一人の女に生きることを望むなど
ひどく愚かで滑稽で自分でも笑ってしまう。
でも生きてほしい。
願わくばそばにいてほしい。
だが、
数多の人を殺めてきた俺が
あんな安らぎを求めるのは
…………絶対的に間違っている。
だから奴の心ノ臓を奪った。
俺がそばにいなくても、
……奴が未来へ帰ったとしても
勝手に死なないように。死ねないように。
たかが女一人にここまで情を湧かせるとは。
俺にもまだ情が残っていたか。
………もうすぐ奴が未来へ帰るためのわーむほーるとやらが開く時期だ。
ここは危ない。帰してやろう。
そう考えると何故だか胸がチクリと痛んだ。
胸が痛い、が今宵は眠れそうだ。
本人にも分からない胸の痛みを抱え、
信長は珍しく
眠りに落ちたのだったーーー。