第1章 どんなスイーツよりも甘く
気を取り直して残りのシュークリームをかじると、思いのほか大量のカスタードクリームが飛び出してくる。
「あわわっ…!」
それを溢さないように、咄嗟に指でキャッチ。
セーフ…!
クリームが付いた指をパクっと咥え、綺麗に舐め取る。
するとそれを見ていたてっちゃんは、ニヤニヤ顔で近づいてきた。
「ちょっとちょっと~。ナニソレ?エロいんじゃない?」
「は!?エロいとか何!そういうこと考えるてっちゃんがエッチなんでしょ!」
「"そういうこと" ってナニ?ん?言ってみ?」
「それは…」
ドSモード来た…。
てっちゃんはズイッと距離を詰めてくる。
更には、反論してみろと言わんばかりに私の顔を覗き込んだ。
「し…知らない!そんなに苛めないで」
そっぽを向けば、また可笑しそうに吹き出す。
「好きな子は苛めたくなるもんなの、男ってのは」
「小学生みたいなこと言わないでよね!」
てっちゃんの減らず口に、ささやかな反撃。
直後。
私の顔は、大きな手によって強引に彼の方へと戻されてしまう。
わ…、怒った…?
無表情で押し黙るてっちゃんに緊張が走る。
「…まだクリーム付いてんぞ」
「え?どこ…」
「ココ」
そう言いながら、唇が重なる。
触れ合って数秒。
次の瞬間唇の端をペロッと舐められ、離れていくてっちゃんの顔。
「な…な…っ、舐めっ…!?」
「どうだったぁ?小学生のキスは?」
「……」
小さな反撃は大きな反撃で返ってくる。
この恋人には、きっとずっと敵わない。
バニラが香るキッチンの中で交わしたキスは、彼が作るどんなスイーツよりも甘かった。
【 end 】