第1章 どんなスイーツよりも甘く
てっちゃんが営むケーキ屋さん。
そのキッチンの中には、甘い匂いが立ち込めている。
目の前には白いコックコートに、ちょこんとコック帽を乗せたてっちゃん。
ホールケーキに向き合う顔は、真剣そのもの。
生クリームを均一の形と大きさで搾っていく様子は、まさに職人さんだ。
「何?そんなガン見して。食いてぇの?」
チラッと私を見たてっちゃんが笑う。
違うよ。
その手つきに見惚れてただけ。
そう返したいところだけど、私を食いしん坊みたいに言うから褒め言葉は飲み込んだ。
「シュークリームなら余りあるけど。食う?」
「……食べる」
悲しいことに、てっちゃんのスイーツはどれも美味しい。
食べるかと聞かれれば、答えはイエスしかない。
「どうぞ?」
「いただきまーす」
差し出されたシュークリームをひと口、ふた口、食べ進める。
「美味しい」
「そ?」
「てっちゃんはさ、どうしてパティシエになろうと思ったの?」
そう聞いてみれば、作業する手がピタリと止まった。
「梨央、昔から甘いもん好きだったろ?」
「うん」
「幸せそうに食べてるの見てたらさ。こんな風に梨央を笑顔にできるって、すげぇなって思って。それがきっかけ」
「……私、が……きっかけ?」
「うん。そのお陰で目標ができて店持てて、お客さんも来てくれてるワケだから。食いしん坊の梨央ちゃんに感謝ですよ」
てっちゃんはそんな大事なことをサラッと告白しつつ、今度はキラキラした苺に手を伸ばした。
もう…そんなこと、一度だって口にしたことなかったじゃない。
本当、敵わないなぁ……。