第5章 ご褒美
*赤葦視点*
「嫌!絶対嫌!私今日熱あるから!40度越えだからっ!」
今日は週に一度、家庭教師の先生が来る日。
汐里お嬢様は、何が何でもサボる気でいる。
どうやら新しく変わった先生は相当厳しい指導で、お嬢様とは馬が合わないらしい。
「我が儘言わないで下さい。もう月島先生はお部屋でお待ちですよ」
「だってツッキー怖いんだもん…。ねぇ、赤葦さん…どうしても行かなきゃ…」
「駄目です」
お嬢様に食い気味に返す。
すると渋い顔で俺を見上げ、恐る恐る声を出す。
「晩ごはん、ローストビーフにしてくれたら頑張る…」
「今日の夕食は和食だそうです。さっきコック長に確認しました」
「ええっ!?じゃあ頑張るのやめ!絶対行かな…」
「汐里お嬢様」
少し強い口調で名前を呼べば、その小さな肩がビクッと震えた。
「聞き分けのない女性は、可愛くありませんよ」
「……」
一気に勢いをなくしたお嬢様。
子どものようにしょんぼりしている。
少しきつかったか?
まあ……俺も鬼じゃないし……。
「お勉強頑張られたら、ご褒美を差し上げます」
「……ほんと?」
「はい」
"ご褒美"に気を取り直したようで、お嬢様は顔を強ばらせながらも、月島先生の待つ部屋へと向かった。