第4章 借り物競争
1位を確信し走っていると、後ろからチビッこい影が迫ってくる。
げっ…!夜久!?
その手に持ってるもん何だよ!?
Tシャツか?
身軽な夜久は今にも俺に追いつきそうだ。
「梨央ちゃん、も少し速く走れるか!?」
「えぇ!?無理だよっ、私足遅いっ…か、らあああァァっ……!!」
返事なんて待ってらんねぇ!
俺は梨央ちゃんを横抱きにすると、その勢いのまま走り出す。
くっそ!横に並んじまった!!
こいつにだけは、ぜってー負けねぇっ……!!
「はぁ…はぁ…どっちが1位だ!?」
ゴールのテープをほぼ同時に切った俺と夜久。
1位の旗を持つ海に尋ねる。
「同着で二人とも1位だね。おめでとう」
「は?同着で1位とか…嬉しくねぇよ」
夜久が不満そうに海を見上げる。
珍しく意見が合うな。
「そうそう、同着とかねぇから!ビデオ判定しようぜ!」
「ははっ。高校の体育祭でビデオ判定なんてあるわけないだろう?それより黒尾。その先輩、早く降ろしてあげたら?」
……そういえば。
抱き上げたままだった梨央ちゃんに視線を落としてみる。
「は…早く降ろして……」
そこで縮こまる梨央ちゃんは、赤い顔をして俺を見上げていた。
「全校生徒の前でお姫様抱っこだから。かなり注目集めちゃったよね」
海は仏様のような顔でニコニコしている。
勝つことに夢中で気づかなかったけど。
腕に抱いた梨央ちゃんは、ふわふわ柔らかくていい匂い。
女子ってのは、やっぱ男とは全然違うんだな。
このまま降ろしちまうのは、正直もったいない。
「どうせ注目されてるなら、このままテントまで戻ろっか?」
意地悪く追い打ちをかけると、梨央ちゃんはついにその顔を手で覆ってしまった。
「もう…っ、てっちゃんのバカぁ……」
勝負の結果には納得いかねぇけど。
梨央ちゃんの可愛い顔を見られたから、まぁそれで良しとするか。
【 end 】