第1章 悪魔参上。
夜遅く、疲れきった体で帰宅し、真っ暗な自分のアパートの部屋の電気をつける時。その時に、やっと一日が終わったなと感じる。
だが、今日は違う。
どうやら、今日はまだ終わらないようだ。
なぜか、消して出社したはずの電気がついている。
「やっほ」
そして、あたかも自分の部屋であるかのようにソファに居座る男もいる。黒い髪に黒の瞳。そこだけを見ると日本人のようだが、顔立ちは欧米人のように彫りが深くてなかなかのイケメン。いや、異次元なほどのイケメン。服装は、黒いコートに下は白のスーツ。正直、ださい。どこのホステスだっての。右の耳にはピアスが三つ。そしてまた、右の人差し指には赤いルビーのような石がついた指輪。
私はいつからこんな幻覚を見るようになってしまったのだろうか。それだけ疲れてたってことか、と私に手を振るチャラ男を無視して寝室へと向かう。
嬉しいことに明日は日曜日。
仕事が休みなのだ。
明日になれば、あのチャラ男の幻覚も消えているだろう。そう思いながら私は眠りにつ……こうとした。
「ちょいちょいちょーい」
喋り方がチャラい。
「なんで無視するわけー?俺、すんごいショックなんだけどー」
声がどんどん近づいてくるが、私は動じない。だって、ただの幻覚だもの。明日になれば消えているだろう。それに何より今は疲れている。
「え、寝ないでって」
なんだろ。いちいち腹立つ。
というか、口調が軽い。軽すぎる。
薄い。薄っぺらい。
「はい、目開けてー」
ついその声に釣られて目を開ける。
すると、あの異次元なほど端正な顔がすぐ目の前にあった。
「見えてるー?」
うんうん見えてるみたいだね、と一人で頷き、にこにこと笑う男。気持ちが悪い。
そして、男が自分の掌をぱんっと合わせる。そして、道化師のようなお辞儀をして見せた。
「はい、聞いて驚けー。なんと、悪魔サタンの参上だお」