第60章 葛藤
「…………」
「…………」
幸男さんの言葉に思考が停止し、公園内に静寂が訪れる。
お互いに沈黙になる中もう一度幸男さんの言葉を思い出した。
えっと…さっき…
聞き間違いじゃなかったら…
風呂……一緒に……って…
幸男さん…言ってたけど…
言い間違い…?
とか…だよね……
真面目でいつも真剣な幸男さんの言葉とは思えず「言い間違い」と言い聞かせていても、さっきの言葉が頭の中でリピートされててだんだんと顔に熱が籠るのを感じる。
幸男さんになんて声をかけたらいいかわからずどうしようかとと迷っていると顔を真っ赤にした幸男さんと目が合い、手を引かれるまま公園を出て幸男さんの家へと向かった。
* * *
「あの…幸男さん…」
「…なッ…なんだよ……」
「その…私一旦…自分のマンションに戻りたくて…」
「…そういや着替えとか…取りに行くって言ってたな…先寄るか?」
「いや…その…幸男さんは…先にお風呂入ったほうが…泥とか気持ち悪いかと思いますし…」
「……………」
幸男さんの家へと向かう途中、意を決してさっきの話の真意を確かめるように聞くと急に幸男さんは立ち止まった。
ギュッと離さないように繋いでる手に力が籠もるのを感じ、さっき幸男さんが言った言葉は言い間違いや冗談なんかじゃないと改めて分かる。
遠回しに拒否したような言い方をしてしまったことに、再びどうしたらうまく伝えられるかわからないまま黙っていると幸男さんはゆっくり言葉を続けた。
「聖知は…嫌ってことか…」
「ッ……そ…それは…ッ…」
再び幸男さんからお風呂の話が出ると胸がびっくりするくらいドキドキしてしまい、顔が熱くなるのを感じ言葉を濁してしまう。