第60章 葛藤
「幸男さんは…私が、辰也君に心変わりすると思ってるんですか…」
「ち、ちげッ…そんなふうには思ってねえッ!……ただ…」
「ただ…?」
「あいつの方が…その…」
「……?」
疑っているわけじゃない
幸男さんはそう言ったけど…私が辰也君を好きになるかもしれない…そう思われているかと思うと悲しくなる。
顔を俯かせていると急に両肩を掴まれ、必死に何かを伝えようとする幸男さんと目が合いフイッとバツが悪そうに逸らされる。
「…かっこいいだろ……」
「……へ…?」
「俺とタイプが違うっていうか…女慣れしてるっていうか…正直ルックスだけ見ると…って何笑ってんだよッ!」
「いや…だって…ふふ…なんか可愛いなって思って…」
「なッ…か…可愛ッ⁉︎」
「すみません、ふふ…笑っちゃって…でも幸男さん一つだけ言わせてください」
確かに辰也君は容姿端麗でイケメンの部類に入ると思う。涼太とどこか似たタイプだと感じていた。さっきまで悲しかった気持ちが嘘のようで、幸男さんの手を優しく握りながら言葉を続けた。
「私にとって1番かっこいいのは幸男さんだけです。それじゃダメですか…?」
「ッ…!」
「本当の私を理解してくれているのは幸男さんだけです。私の過去のことは誰でも話せることじゃないです。ずっと幸男さんが…寄り添って励ましてくれたから…今の私がいる…そう思っています」
「聖知…」
つい笑ってしまったけど、不安にさせてしまっているのは事実だから…幸男さんが安心してくれるようにゆっくり言葉を続けた。
それに答えてくれるように幸男さんも手を握り返してくれて温かな手の温もりが伝わってくる。