第60章 葛藤
「いつまで抱きついてんだよッ!さっさと離せッ!」
「……笠松さん、そういえばいたんですね」
「なにシレっと誤魔化してんだよ、気安く触わんじゃねえ!」
「ッ…ゆ…幸男さん!?」
幸男さんはすぐに辰也君を私から引き離し、辰也君の目の前でギュッと腕の中に閉じ込めるように抱きしめる。
幸男さんの顔が近いのと人前で抱きしめられている事に恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じ恥ずかしくて視線を泳がせていると辰也君はニコッと笑顔で微笑んだ。
「なるほど…笠松さんと俺の今の違いがよくわかりました。」
「はぁ?…なに言ってんだ…」
「まぁ、いつかは逆転になりますけどね」
「ッ…!」
幸男さんにギュッと強く抱きしめられたまま辰也君と幸男さんの会話についていけず頭がが追いつかない。
ふと、辰也君と目が合うとさっきのように笑顔を浮かべ言葉を続けた。
「聖知ちゃん、本当はもっと話したいんだけど…そろそろ合宿所に戻らないといけないから…また連絡するね…今度は2人っきりの時に…ね?」
「連絡って…」
「じゃあ…また…」
辰也君が言い終わらないうちに幸男さんに更にきつく抱きしめられ、静かに辰也君は部屋を退出した。