第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
「お嬢様…大丈夫ですか?立てますか?」
「……ひどい……何であんな嘘…私お祖母様に言わないでって一言もッ!」
「なら言ってもよかったのですか?貴女がバスケをして遊んでいることを…紅羽様に…」
「ッ……それは…」
「結局同じことなんですよ。紅羽様に伝えようが…伝えまいが…貴女が時間を管理できていない時点で結果は変わりません。さぁ…治療に…」
「お願いッ…勉強もっと頑張るからッ…何でも言うこと聞くからッ…散歩の時間だけはッ…無くさないでぇッ…!お願い……」
「……………」
桐生の言葉に何も言い返せなかった。
桐生がお祖母様に言った事は嘘だったけど、もし…桐生がお祖母様に報告すると言っていたら…もっと早くにバレていた。
それでも…そうだとしても…
私には譲れないものがあった。
ひと時の自由な時間
奪わないでほしい
私にとっては唯一自由で開放的になれる時間
絶対に無くしたくない
私は懇願するように泣きながら桐生にお願いをした。
きっとお願いをすれば許してくれる
お祖母様を説得してくれる
でも…桐生から返ってきた言葉は私の心をズタズタに引き裂くような言葉だった。
「くどいですよ、お嬢様。私は、警告したはずです。どうなっても知らないと…時間に遅れた貴女が悪いのです。そうですね…紅羽様の言う通り…散歩の時間をマナー作法の振替の時間に当てましょう…もう時間に遅れないよう…厳しくいきますから…そのつもりで」
「…いッ…嫌…ッ…だってせっかく友達…外に出れなくなるなんてッ……」
「勉強の合間の5分間にベランダで風に当たることができます。貴女にはそれで十分です。束の間の『楽しい夢』を見てたと思えばいいでしょう?」
「でもッ…辰也君と大我君がッ…」
「彼らもすぐお嬢様の事など忘れますよ。貴女は余計なことはせず勉強だけしていればいいのです」
「そんなッ……」
「貴女は外には出しません。そのつもりでいてください。」
外に出れない
桐生の言葉に心の中で何かが崩れ去るような感覚がした
その日から自分の感情を押し殺し、勉強をこなしていった。辰也君にもらった花もいつの間にか桐生に処分され私には何もなかった。
前よりもハードになったスケージュールに心が悲鳴をあげても私の側には誰もいない。
ずっとひとりぼっちだった