第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
「あれ…ない…たしか…ここに…」
長い勉強の時間が終わり、ストバスへ出かける準備をしようと部屋に戻るといつもの場所に置いている筈の時計がなかった。
あれがないと時間通りに帰れない
机の引き出しや隙間に落ちていないか調べてもどこにも無くて…時間がない事に焦りを感じていると背後から視線を感じた。
「…何やってるんですか…お嬢様。床に這いつくばるなどレディのする事ではございません。」
「ッ…時計が…なくて…」
「はぁ……貴女は物の管理もできないのですか…サイドテーブルにあるのはなんでしょうか。」
「ッ…あ…こんなとこに…」
いつもはきちんと所定の場所にある筈の時計が、辰也君にもらった向日葵を生けている花瓶の近くに置いていた。
時計が見つかった事に安堵しポケットにしまうと急いで屋敷を出た。
* * *
「あ、聖知ちゃん!」
「辰也君…あれ…今日は大我君は一緒じゃないの?」
「あぁ…大我はもう少ししたらくるよ…それより…その…」
「……どうかした?」
辰也君は何だかソワソワした様子でバスケットボールを持ちながらチラチラと顔を赤らめたまま私を見る。
いつもと様子の違う辰也君に違和感を感じていると、急に深く深呼吸をして真剣な表情で私を見つめた。
「聖知ちゃん…前プレゼントした向日葵だけど…」
「向日葵なら大事に花瓶に生けてるよ。元気に咲いてて…毎日見るのが楽しくて…」
「ほ…ほんと?…じゃあ、前言ってた花言葉の話覚えてる…?」
「花言葉…?たしか…本数によって意味が変わるって話だったよね?」
「そ…そうだよ…も…もしかして調べたりとか…した…?」
花言葉
花の本数によって意味が変わるって話をしてくれたのは思い出したけど…その意味を辰也君は頑なに教えてくれなかった。
期待を込めるような眼差しに首を横に振ると、辰也君は少しガックリしたように座り込んだ。