第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
––桐生side—
あの日––––
2人の子どもと関わるようになってから…
お嬢様は変わった
辛そうにしていた勉強も…あれほど嫌がっていた散歩の時間も…この屋敷に来た当初に比べて笑うことが増えてきた。
私や紅羽様はもちろん…ご両親にも笑顔を見せることはありませんが…
時折…勉強の合間の時間、短い休憩時間に何度も窓から見えるストリートバスケを見ては楽しそうに笑っている姿を見かけるようになりました。
さらには、仲良くなった友人にもらったのか…どこで入手したかわからない花を屋敷に持ち込み、あろうことかご自身の部屋に飾り…飽きもせず毎日花を眺めるお嬢様の姿に私は嫌悪感を感じた。
「お嬢様…少々よろしいですか。」
「…何……」
「紅羽様がお呼びです。至急部屋に来るようにとのご伝言でございます。」
「……そう……わかった…」
お嬢様は目を伏せ悲しげな表情を浮かべ部屋を出ていった。
その姿を横目で確認し、私はお嬢様が時間管理に使っている時計を手に取りある細工をした。
特別な仕掛けではない。
私がしたことは時間を数分遅らせただけ。
彼女が笑うのを見かけるたび、自身の中の加虐心がくすぐられる。
彼女が笑うことなど許されない。
幸せな時間など必要ない
もっと不幸に…もっと閉鎖的でいるべきだと。