第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
「これ…向日葵?すごく綺麗…それにとても良い匂い…」
「ッ…聖知ちゃん…その…あげるよ」
「え…でも…」
「聖知ちゃんのために用意したんだ…受け取ってくれる…?」
「私の…ために…?…辰也君、ありがとう。大切にするね」
辰也君は私に花束を差し出していつもより緊張したような表情を浮かべていた。
きっと一生懸命選んで準備してくれたんだ
友達から初めてプレゼントをもらって再び暖かい気持ちになり、受け取ると辰也君は何か言いたそうに顔が赤くなっていた。
「…本当に良い匂い…向日葵が3つと小さなお花…これ…なんていう花なんだろ…」
「聖知ちゃん、花言葉って知ってる?」
「花言葉…?」
「そう…向日葵は本数毎に意味が変わってくるんだけど…」
「どんな意味があるの?」
「……ッ…それは…」
氷室君はそういうと、そっぽを向いてしまい教えてくれなかった。
何回か聞いたけど『秘密』とだけ言われ、いつもの優しい笑顔を浮かべてその日も一緒にバスケで遊び楽しく過ごした。
* * *
「お嬢様…その花はいかがなさるおつもりですか?」
「私の部屋の花瓶に生けるつもりだけど…」
「ご冗談はおやめください。どこに生えてるかわからないような雑草を屋敷に持ち込むなど…私が処分します。」
「…なんで…なんでそんなこと言うのッ…⁉︎これは…辰也君が…私のために用意してくれた物なんだからッ…!」
「だから、なんですか?お友達には枯らしてしまったと言えばいいでしょう?」
「ッ…絶対に渡さないッ…貴方といるとこっちまでおかしくなるッ…!」
「………」
屋敷に着くと桐生は呆れたような表情で私から花束を奪おうとした。
そんな桐生を振り切って、私は逃げるように屋敷の中へ入って行った。
人の気持ちをなんだと思ってるのか…
私はあんな…人の気持ちを踏み躙る人間だけには、なりたくない
階段を駆けている間、私を睨みつけている桐生から目を逸らし、勉強の時間まで部屋に閉じこもった。
この時の私は知らなかった
再び絶望を
自由を奪われる事になる事を…