第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
––聖知side—
「お嬢様、散歩の時間です。」
「………」
いつもの時間
いつもの勉強
いつもの散歩コース
桐生に連れられていつものように外へと出る。
ふとストリートバスケの近くで立ち止まった。
昨日はたしか…ここで気絶したんだっけ…
赤い髪の男にも怒られちゃったし…
私って……なんなんだろう……
目を伏せて『ここでぼーっと突っ立てるな』という言葉を思い出し、離れようとすると遠くから呼び止める声がした。
「待って!はぁッ…はぁッ…また本当に会えると思わなくて…」
「………あの…」
「ねえ、一緒にバスケしない?ここに来たってことはバスケが好きって事なんだよね。」
「……別に…ただ見てただけで…」
昨日ハンカチを差し出してくれた男の子が息を切らせて走って来る。
『バスケをしないか』と誘われてお父さんの事を思い出した。お父さんも日本にいた時、バスケットボールを持って私とよく公園で遊んでくれた。
でも私にはバスケをやる時間なんてない
断ろうとしたら昨日の赤い髪の男の子も遅れて現れた。
「あ、昨日の奴じゃん…また此処で見てたのかよ」
「ッ…!…ご…ごめんなさい…」
「なッ…なんで謝るんだよ…」
「ほら…だから言っただろ…女の子には優しくしないと…」
また、怒られると思い慌てて深々とお辞儀をして謝った。
お辞儀をしながら思った
今度から此処には来ないほうがいいかもしれない
散歩コースを桐生に変えてもらおう
もう…私は誰とも関わるべきじゃない…
胸の痛みを感じながら唇を噛み締め自分に何度も言い聞かせていると、返ってきた返答は私の予想と違っていた。