第59章 夏の陽だまりに咲く初恋
「今、14時15分だけど…大丈夫…?
コレ…よかったら使って…?」
「……あり…がとう…
あの…私はこれで…」
時間を聞いて心底ホッとした。
今の私には男の子の優しさよりも『お祖母様に怒られずに済む』
それしか頭になかった。
ハンカチを差し出した相手から視線を逸らしベンチから起き上がると赤い髪の男の子に引き止められる。
それが火神君だった。
「ちょっと待てよ、今度からあそこにボーっと突っ立ってるのやめろよ。ボールがどこに飛んでくるかわかんねえし…危ねえだろ。」
「大我…そんな言い方はないだろ…ごめんね…悪い奴じゃ…」
「ごめんなさい……気をつけます…」
「あ…待って…」
火神くんの言葉が胸に突き刺さる。
ただの30分の散歩でも私は他の人に迷惑をかけてばかり…
深々とお辞儀をして謝ると桐生と一緒にストバスを後にした。
* * *
「お嬢様、今更ですがお怪我はありませんか?」
「……ない」
「そうですか…ですが次からはお気をつけください。貴女に何かあれば勉強の予定が狂いますから。」
「………わかってる…」
屋敷に戻ると今更のように桐生は私の容体を確認する。
決して怪我をしたとか…具合が悪いかどうか心配で確認したんじゃない。
今から夜まで勉強の時間
スケジュールの調整は桐生の仕事…
何かイレギュラーが起これば彼がいつも調整を行う
大抵その時はお祖母様の折檻が長時間にかかった時に調整される。
もちろん勉強の時間を調整されるのではなく食事の時間を大幅に調整されたり、私が休む時間をカットされる。
久しぶりの屋敷以外の人との会話は何も弾むこともなく終えた
もう2度と会うことはない
この時はそう思っていた