第57章 温もり
「あの、幸男さ…っ…」
「ここだと、母さんがうるせえから…2Fで話そうぜ。」
「っ…で…でも…幸大君たち起きちゃっ…」
笠松の母親が部屋に入るのを見届け、聖知から明日の話を切り出そうとすると、笠松は言葉を封じるように自分の胸板に聖知を閉じ込めギュッと抱きしめる。
聖知の言葉を無視するように手を引いて2Fへと一緒に階段を上がっていき、白いテーブルが一つだけある部屋へと入る。
「ここなら、聞かれることもあいつらも起きねえだろ。」
「ここって…」
「よく部で集まる時に使っているんだ。試合前とか、合宿前の打ち合わせとか…」
「なんだかワイワイして楽しそうですね。ここならみんなで勉強とかもできそうです。」
物がない殺風景な部屋に、笠松はどこからかクッションを持ってきて、バスケ部でたまに使用している話をした。聞いているだけで笠松が苦労してそうな情景を聖知は思い浮かべ自然と笑みが溢れる。
「そ…それより…さ…さっきの事…だけどよ…」
「……?」
「俺、別に…っ…どうでもいいなんて…」
「明日の話しですか…?明日の朝、桐生に昼から行くって伝えときますね。うまく話せるかわかりませんけど、思っていることをぶつけようと思います。」
笠松は聖知の笑顔を見ると顔を赤く染め、さっきは素直になれず『どうでもいい』ような事を言ってしまい、謝ろうと口ごもりながら話を切り出した。
しかし、聖知自身は気にしていなくて、明日の話し合いについて心配させないように笑顔を浮かべ笠松が言いたい事は伝わらなかった。