第57章 温もり
「ほら、幸男も聖知ちゃん、可愛いって思うでしょ?」
「っ……そ…そんな事よりなんでまた盗み聞きしてるんだよっ…!」
「…そんな事?」
「い…いや…ちがっ…」
笠松は顔を赤くして、素直になれず話を逸らそうとして言い間違えてしまう。自身の母の不機嫌な表情を見て、聖知の反応が気になりすぐに弁解しようとするが既に遅かった。
笠松の母は当て付けのように、聖知を自身の娘のように優しく肩に手を添えて部屋へと連れて行こうとする。
「さあ、聖知ちゃん、幸男なんか放っておいて部屋に行きましょ?」
「え…で…でも…」
「もう遅いし、疲れてるんだし…夜更かしは良くないわ。」
「あ…はい…それじゃあ、笠松先輩おやすみなさい。」
聖知も笠松の母に促されて時計を見ると、既に22時を過ぎているのを確認する。今日はお互いに疲れきっていると思い聖知は部屋について行こうとすると、笠松に腕を掴まれ引き止められる。
「なっ…ちょ…ちょっと待てよ…明日の話とかしてねえし…」
「なら、まず最初に言う事あるでしょ?」
「っ…か…母さんは先に部屋に行ってろよっ…俺が後で聖知連れて行く。」
「……怪しい……まあ、いいわ…聖知ちゃん、早めに部屋に来てね?」
笠松の母は先程の『失言』について自身の息子を、ジトッとする様な責める目付きで見つめる。
笠松と聖知の雰囲気を見て、2人を見守ることにしニッコリ微笑み片手をヒラヒラさせて、一足先に寝室の部屋へと入っていった。