第57章 温もり
「っ……」
「………」
ゆっくり唇が離れると再び幸男さんに抱きしめられ、お互い言葉も交わさずしばらく抱きしめ合っていた。
まだ、幸男さんの唇の感触が残っている感じがして急に恥ずかしくなり口元を軽く抑えていると顔を赤くした幸男さんが小声で言葉を漏らした。
「聖知、俺は…絶対…似合う…と思う。だから…その…だな…か…可愛いって思うし…」
「っ…!…なら…私…着てみます。その…着こなせるか…わかりませんけど…」
幸男さんの言葉に頬が一気に熱くなるのを感じる。
好きな人に少しでも可愛いって思ってもらいたい。
恥ずかしい気持ちとドキドキする気持ちが交差する感情に浸りながらいると、幸男さんは再び私に顔を近づけ唇が触れようとした瞬間、遠くの方でカシャッとシャッター音が室内に響いた。
「っ…!か…母さんっ…!?」
「っ…あらら…バレちゃった?…」
「なっ…何やってんだよっ…!」
「うふふ♡私がいなくなったらキスの1つや2つすると思って、カメラ取りにいってたの♡聖知ちゃんと幸男の愛の記録を撮ろうと思って♡」
「っ…と…盗撮じゃねえかっ!…まさか撮ったんじゃねえよなっ!?」
るみさんは、音が漏れてしまって見ていた事がバレても悪びれる様子もなく、出てくると一眼レフのカメラを見せ楽しそうに笑む。
「それが…気が焦っちゃって、シャッター押しちゃった。もうっ!なんでキスしてないのよ…」
「………かっ…勝手に写真撮んなよっ!」
「…何その…安心したような顔は…」
「し…してねえよっ!と…とにかくそれちゃんと消せよっ!」
るみさんの言葉に私も幸男さんもホッと胸を撫で下ろした。
キスしているのは見られなかったみたいで一安心していると、鋭いるみさんは、幸男さんに疑いの目で詰め寄っている。