第57章 温もり
聖知の家の話をまさか、母さんにまで話すことになるなんて思わなかった。
なんであそこにいたかは…わからねえが…
今の聖知には負担はかけたくない。
聖知の話を聞いても、母さんはあんまり驚かなかった。
むしろ、俺よりも聖知に的確にアドバイスをしている様子に黙って聞くとしかできなかった。
『幸男は黙ってなさい。優しくすることだけが全てじゃないのよ。』
そう言われて正直胸が痛かった。
聖知のために最善なことはやれているつもりだったが…そうじゃなかったのか…?
自分の不甲斐なさを感じていると俺は母さんの言葉に耳を疑った。
『ビンタの一つでも引っ叩いてやればいいのよ。』
引っ叩くって……そんなことできたら最初から苦労しねえし…
簡単に割り切れる話じゃねえから悩んでんだろっ…
俺は、これ以上聖知がまた、傷つくんじゃないかと思い、母さんにこれ以上話を大きくしないよう注意しようとすると、今度は聖知が俺を引き止めた。
聖知は強い。
話を聞きながらそう思った。
泣いたり、たくさん悩んでも前向きにいつも取り組もうと努力しているのがよくわかる。
聖知の前向きな姿を見て、少しだけ『優しくすることだけが全てじゃない』って言うのがわかった気がする。
俺も…まだまだ見えてねえな…
帰り道で話をした聖知よりも、問題にしっかり向き合おうとしている聖知の方が輝いて見えて自然と笑みが溢れた。