第57章 温もり
「今度泊まりに来てくれる約束してくれたじゃない…あれは嘘だったの?」
「そ…そうじゃありませんけど…着替えも持ってきてませんし…また後日…」
「着替えなら心配しないで♡何とかなるから。」
「いや…でも……」
笠松の母は、寂しそうな素振りをわざとらしく見せ、それでもなかなか折れない聖知の両手をそっと優しく握りしめる。
「聖知ちゃん、甘えていいのよ…?私は頑張って問題を向き合おうとする聖知ちゃんは立派だと思うし、自立性は尊重したいんだけど……今の聖知ちゃんは少し休息が必要だと思うわ。」
「…るみさん…」
「ね?…やりたいことは決まったんだし、今日は家でゆっくり休んで?…ゆっくり休んで、やりたい事をして楽しむの。…そしたらまた心に余裕ができると思うから。」
「……………」
笠松の母の言葉にそれ以上断わることができず、顔を俯かせる。
聖知は自分の事を真剣に心配してくれる笠松の母に感謝し、泣きそうになるのを堪えていると、いつのまにか車から降りた笠松も聖知に声を掛ける。
「聖知、前にも言っただろ…?迷惑だなんて思ってねえし、いつでも甘えていいって…1人で抱える必要なねえ。」
「っ……笠松先輩…」
「聖知ちゃん、とりあえず家に入ってゆっくり休みましょ?」
俯いた状態の聖知を笠松の母は、優しく問いかけながら背中を支えて寄り添う。
問いかけに聖知は黙って頷き、笠松の母に促されながら笠松家へと入って行った。