第57章 温もり
「俺とこの話を一緒にすんじゃねえよ…母さんが思っている以上に…そんな簡単に割り切れる話じゃねえんだよ。」
「…待ってください、笠松先輩…」
幸男さんは優しいからいつも私を庇ってくれる。私の気持ちが見えているかのように無理をさせないように気を配っている様子がわかり口を挟んだ。
「どうした…?」
「…るみさんの言う通りです。今日の話で笠松先輩は桐生のこと…すごく怒ってくれましたけど……私は、怒りは感じませんでした。」
「…………」
「今までの態度から悪意は感じていたので、憎んでいると言われても仕方ない事だと…思っていました。でも…それは間違いだって気づきました。私は今まで自分の育ってきた環境のせいにして…最初からきちんと問題と向き合っていませんでした。」
幸男さんも、るみさんも口出す事なく私の途切れ途切れの言葉を黙って聞いてくれる。るみさんに握られている右手が不思議とポカポカと温かく感じ気持ちまで穏やかになるのを感じた。
「私、明日桐生と話をしてきます。そして、今感じていること、思っている事をきちんと話をしてきます。正直…話をしてどうなるかは…私にもわかりません…でも…今まで言えなかった事を全部吐き出してきます。」
「……本当に大丈夫か…無理してないのか…?」
「無理してません…そうしないと先に進めません。何かを変えたいなら…私自身がもっと変えていくよう行動しないといけないってそう思ったんです。」
幸男さんは真剣な表情で、私を心配する。
あんなに泣いてしまったから無理もない。
でも、いつまでも泣いてはいられない。
泣いてばかりでは何も変わらない。
私自身が変えなければいけない。
今の私の気持ちをぶつけると、幸男さんは不敵に笑み言葉を続けた。
「……聖知がそう言うなら俺はもう何も言わねえ。俺だって蹴りの一つでも入れたいぐらいだ。明日は俺も着いて行く。」