第57章 温もり
「ごめんね…?…でも話を聞いて思ったの。聖知ちゃんはもっと堂々とすればいいんじゃないかしら。」
「堂々と……?」
「そう、その桐生さんって人…理由はどうあれ…聖知ちゃんに酷いことしたのは事実なんだから、ビンタの一つでも引っ叩いてやればいいのよ。」
強気な表情でウインクをしたるみさんの言葉にふと気づく。
私は桐生の話を聞いても、怒りはなぜか沸かなかった。
むしろ、ずっと恨まれていた事に関して『仕方ない事』だと半ば受け入れていた。
私は自分の境遇を理由にして最初からあきらめ…
考える事を放棄して、どうすればいいのかわからなくて…
幸男さんに甘えていたんだと改めて理解した。
「…引っ叩くって…あんま物騒な事言うんじゃねーよ。」
「あら、いいじゃない。時には自分の感情をぶつけてこそ、話し合いは広がるものよ。幸男だってバスケしている時は、そうなんじゃないの?」
幸男さんとるみさんが話をしているのを見て、お父さんやお母さんと疎遠になっていた時の事を思い出す。
中学は何も自分から話さず、何も伝えず1人でどうにでもできると思って過ごしていた。でも、ちゃんと自分の気持ちを話したら、前よりお母さんたちの関係は良くなって今では気軽に電話もできるようになった。
今は、到底考えられないけど…桐生と分かり合えることができる日が来るという事なんだろうか–––