第57章 温もり
「ちょっと見て来るから、ここで待っててね。」
車を止めて、笠松の母は1人だけ出ようとすると、息子である幸也と幸大から抗議の声が発せられる。
「やだっ!行く!お姉ちゃんとお話ししたい!」
「僕もっ!一緒にご飯食べたい!」
「…っ…仕方ないわね…その代わりちゃんと言う事聞ける?言う事聞かなかったら、聖知ちゃんに嫌われるかもしれないわよ。」
「「聞けるもんっ!!」」
「… こういう時だけ息ピッタリなんだから。」
このまま置いていくと、車内で騒ぎ出しそうな雰囲気に笠松の母は折れ、2人を連れて車から出る。
いつもはなかなか言う事を聞かない2人も、聖知が絡むと我儘をやめて素直になんでも聞く姿をみて笠松の母は小さくため息をつく。
その頃、笠松の胸板で泣いていた聖知は少し落ち着きを取り戻し、涙を拭いながら離れた。
「っ……すいません…急に泣いてしまって…っ…」
「謝ることじゃねえよ…今は何も考えんな…聖知…っ…⁉︎」
今だに涙が収まらない聖知を見て笠松は再び手を差し伸べようとした瞬間、後ろからギリギリと軋むくらい肩を強く掴む鬼の形相のような顔をした自身の母親の姿を見て驚嘆した。