第57章 温もり
「…幸男さん、ここで大丈夫です。今日は遅い時間までありがとうございました。」
自身のマンション付近までやってくると聖知は立ち止まり、改めて笠松に向き直りお礼を伝えて繋いでいる手を離そうとした。
でも離せなかった。
笠松は離すどころか離すまいとギュッと握りしめてている。
「…聖知、お…俺のとこに泊まりに来い。」
「…えっ…でも……今日は…」
「…俺が気づかないとでも思ったか?…1人で悩んでんじゃねえ。俺が辛い時でもいつでも側にいる、そう約束しただろ。何より…」
笠松の言葉に聖知は視線を逸らして表情を曇らせる。頭の中で色んな感情が入り混じり断ろうと笠松に向き直ると、真剣に自分を見つめる表情に言葉が出なかった。
見透かしたように笠松は言葉を続け、繋いでる手を引き聖知をしっかりと優しく抱きしめる。
「泣けよ…辛かっただろ…俺の心配じゃなくて、もっと自分の事を労われ。今にも泣きそうな顔してんのに1人にできるわけねえだろ。迷惑とか遠慮なんかいらねえし、感じる必要もねえ…俺をもっと頼れ。」
「っ……幸男さん…」
『泣けよ』と言われ聖知の目に涙が溢れる。色んな感情が入り混じっていて何も考えが整理できなかった本当の理由が聖知はやっと理解できた。
辛かった
苦しかった
悲しかった
感情を無理に押し殺してきた反動で何も考える事ができていなかった。
笠松の言葉に涙が止まらなくて手で拭っても次から次へと溢れてくる。
『甘えてもいいんだ』ただそれだけの思考が働き、笠松の背中にしがみついて聖知は声をあげて泣いた。