第56章 真実
「矛盾などしてませんよ。…笠松様は白飯を食べる時何を使って食べますか?」
「…は?いきなり関係ない話…」
「まあ、いいでしょう。
おそらく箸を使うのではないですか?」
「……だから…それが何なんだよっ!」
ネクタイを外すと髪を掻き上げる。
長年喉の奥につかえた事を全て話終わり、今まで窮屈だった燕尾服を崩すと一息をつく。
笠松様の質問に、やはり彼と私たちでは生きている世界の違いを改めて知り、わかりやすく例え話を始めた。
「最初から箸を使える者などいません。幼い頃から少しづつ練習して慣れていき…箸で食事を取ることが出来るようになるのです。」
「何が言いたい…」
「笠松様…私が今から素手か、箸で食事を取ってくださいと言ったらどちらで食事を取りますか?」
「っ…さっきから何訳わかんねえ話してんだよっ…ふざけてんのか…!」
笠松様は私をギロリと睨みつけ話の真意を理解していない。
笠松様からしたら、私が的を射てない話を始めたと思っているのでしょう。
「ふざけてはおりません。素手で食事を食べないのは…笠松様が幼い頃から箸を使って食べるのが習慣として染み付いているからです。」
「…………」
「長年染み付いた習慣はそう簡単には治りません。憎しみがなくなったからいってすぐに気持ちが切り替わるわけではありませんでした。というよりは…わからなかったが正しいでしょうか。長年、お嬢様にはキツく当たってきましたから…接し方がわからなかった、が本音です。」
お嬢様が久しぶりにこの屋敷に来た時も今さら優しい言葉の掛け方などわからず、いつものようにキツく当たっていました。そうすることによって彼女をさらに苦しめることになるとわかってはいても…