第56章 真実
「笠松様からすれば、私が言っている事は理解し難い事でしょう。」
「ああ…理解できねえよ。」
「私も理解してもらえるとは思ってはおりません。所詮、貴方と私たちでは生きている世界が違いすぎますから。」
私の言葉を聞いて笠松様はずっと私を睨みつけている。彼のように一般家庭育ちの者に理解できるわけがない。人生が狂わせられた事も絶望を味わったことすらないのだから…
そう目を伏せて考えていると。いきなり笠松様は机をバンッと叩き、大きな音と共にティーセットの食器が触れ合う音が部屋に鳴り響く。
「ふざけんじゃねえっ!」
「っ…!」
「生きてる世界が違う?そんなの関係ねえよっ!俺は確かにあんたみたいに波乱万丈な人生は送ってきてはいねえ。でもな…あんたが聖知の事をずっと当たり続けてきた理由を仕方ないって一言で片付けんなっ!」
「…………」
「接し方がわからなかったって言ったな。接し方がわかないのはするべき事をしてないからだ。どんな理由があっても誰かを傷つけていい理由なんてねえんだよ。まずは聖知に謝ることが先だろ。自分でやってきた事は自分で責任を取れ、甘ったれんな。」
笠松様の言葉に何も出てこず、まるで心を見透かされたような感覚に目を伏せる。自身の中では、笠松様との交際を黙っていることで全てを完結させていた気になっていた。
今更、お嬢様に謝っても許してもらえるはずもない。
そう思い込み、自分よりも一回りも違う青年に『悪いことをしたら謝る』という当たり前の事を教えられるとは思わず、自嘲したような笑みを浮かべた。