第56章 真実
「先ほども申しましたが、私の目的は如月家に対する復讐です。笠松様の言葉で自身の愚行について思うところはありましたが…紅羽様からの信頼をより得るためには命令は遂行するつもりでした。」
「…………」
そう話すとお嬢様の表情が曇りだす。
まだ私の心の内を疑っているのが目に見えてわかり、場の雰囲気を和ますために言葉を続けた。
「実はあの日、笠松様とお嬢様が屋上で2人きりで話をしていたのを聞いていたのです。」
「「っ…!?」」
私がそう言うと、二人は顔を見合わせてどちらからともなくパッと視線をそらし頬を赤らめていた。
そんな2人を気にせず私は話を進めた。
––屋上
「待てよっ……さっきの…ほ…本当…か?」
「な…何がっ…ですか…」
「俺の…好きなとこっ…あ…甘えられる…とか…」
「っ…」
お互い顔が林檎のように真っ赤になっている。
しかし、よくもまあ…誰が来るかもわからないのにイチャイチャできますね…
私は2人を引き続き見ていると人目も憚らず口付けを交わしている姿にため息をつく。
「………あんなっ…可愛い事言われて…我慢出来るわけねえだろ…いくらでも…甘えさせてやる。」
「っ…じゃあ……甘えさせて…っ…くださいっ…」
「…………」
私はお嬢様が笠松様に愛おしむように甘えている姿に驚いた。
幼い頃からお嬢様のあのような姿は見たことがない。
笑顔などもちろん、あのような誰かを信頼するような眼差し…
一度も見たことがない。
笠松様にはお嬢様が心を委ねられる何かがある…
そんな2人を見てその場を離れ少し考えた。
頭ではわかっていた。
ただ、ありのまま報告すればいい。
そうすれば、もっとあの女から信頼を得ることができる。
しかし、私にはあの時のお嬢様の幸せそうな表情が忘れられなかった。
前なら憎くてたまらなかったはずなのに、そこに憎しみはもうなかった。
私は紅羽様に嘘の報告をした。
なぜ嘘の報告をしたのか…
そんなもの答えなど決まっている。
彼女には自分と同じ道を歩ませたくないからだ。