第56章 真実
「……………」
私は昔のことを思い出し、彼の言葉にずっと忘れていた事を思い出した。
『気持ちを無視する』
いつの間にか、自分でも気付かないうちにあの女と同じ冷酷な人間に成り下がってしまった事に。
いや、違う。
気付かないふりをしていただけだ。
結局私は、お嬢様自身を見てはいなかった。
彼女のことを『冷酷な如月家の人間』の一括りでしか見てはいなかった。
彼女の気持ちなど知ろうともせず憎み続けた。
あの時、彼女の苦しみを理解できるのは私だけ…私がお嬢様に手を差し伸べるべきだったと…
昔のことを思い巡らし私は笠松様をもう一度見た。
彼の目は一切迷いがなく、強い意志を持っているように思えた。
「……なるほど……お嬢様が好きになるはずですね……」
彼ならきっと…私ができなかった事をしてくれる。
そんな存在なんだと…
ー
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「ですが…私は笠松様の事だけで紅羽様に報告するのをやめようとは思いませんでした。報告をしなかった理由はお嬢様が変わったからでしょうか。」
「……………」
お嬢様はただ黙って話を聞いている。
自分でも都合の良い話だと思っている。
この話が最後…この話をしてどうするかは、お嬢様自身はどう思うのか…
私は引き続き話を続けた。