第56章 真実
まだ屋敷に来て間もない頃を思い出した。
–––9年前
屋敷に来てから2日経った日の事、あるメイドの噂話を耳にした。
お嬢様は攫われてこの屋敷に連れてこられたと。
「…その話、私にも詳しく聞かせてもらえないでしょうか。」
作り笑いを浮かべ、メイドから話を全て聞きだした。
お嬢様は日本で暮らしており、父親の仕事の都合上NYへ帰ってきたという事。そして、お嬢様の母である澄香様は決して如月家には近づかなかったこと。
おそらく娘がダメならその子供…自分の孫娘を使い、この如月家をさらに発展させるための玩具として利用するのだろうと考えた。
考えながら思った。
だからあの時泣いていたのだと。
「っ……うっ…ぐすっ…」
「…………」
お嬢様の部屋に行くと床に座り込み、嗚咽を上げて泣いていた。
この時間は勉学の時間のはず…にも関わらず部屋にいるということはまた逃げ出したのか。
その証拠に頬は赤く腫れ上がっている。状況を察するに勉強中に粗相をしてあの女の怒りを買い打たれたんだろうと理解した。
「…………」
『可哀想』
使用人の殆どは彼女を哀れみの目で見ていた。
しかし誰も手を差し伸べない。
逆らえば自分の身が危ないからだ。
私は目の前の泣いている少女に自分の境遇と重ね合わせ、手を差し伸べようとした瞬間自分の中の怨恨の感情が溢れ出した。
『彼女は如月家の人間。
彼女にもあの女と同じ冷酷な血が流れている。』
私の中の復讐心が勝り、まだ幼い少女の右腕を片手で掴み泣いているお嬢様を無理やりあの女の部屋へと強制的に連れ戻した。部屋を出て行くと再び何かを打つ音と幼い少女の悲鳴が廊下まで響き渡っていても聞き流した。