第56章 真実
「……わかった。聖知がそう言うなら…」
そう言うと幸男さんは先程まで座っていた席へと戻り、続けて私も座り直すと桐生は話を続けた。
「では……続けます。私がお嬢様に対して認識を変えるきっかけになったのは、初めて海常高校に来た時です。」
「……それは…臨時教師として来た時のこと?」
「そうです。お嬢様が屋敷を出られてから約2年。私の気持ちは変わってはいませんでした。紅羽様からお嬢様の身辺調査の命令が来た時も言われるがまま事実を報告するつもりでした。」
「…………」
なおさら桐生の行動がわからない。
日本に来てからも私を憎んでいたのなら…なんで幸男さんの事を黙っているのか…
桐生の言葉に心当たりがなく、釈然としない気持ちでいるとますますワケがわからなくなった。
「変わるきっかけになった1番の理由は…笠松様です。貴方でなければ私は今でもお嬢様を憎んでいたかもしれませんね。」
「…………」
幸男さんをチラッと見ると、桐生の言葉に慌てることなく桐生をギロっと睨みつけている様子が伺える。
しばらく幸男さんと桐生はお互い目を合わしたまま、何も言葉を発さず重々しい雰囲気が流れ、室内に掛かっている大時計の針音だけが響いていた。