第55章 証し
「……気持ち…ねぇ…
くだらない…人形に何の価値があるのかしら。」
「っ…!!」
「私の思い通りに動かない聖知は欠陥品そのものね。
でも…人形は修理することで正常に戻せる。
これ以上…私の人形を壊すような真似するなら…
こちらにも考えがあるわよ…」
笠松は背筋が凍るほどの悪寒を感じた。
「話が通用しない」相手というのを初めて思い知った。
聖知は人間扱いされていない環境で育ってきたのだと。
今まで「聖知の身内」という事で感情をなるべく押さえていたが、自分の恋人が人間扱いされていない陰惨な環境で育ってきたのを思い知ると、笠松の頭の中でブツンと糸が切れた音がした。
「っ………
人形人形って……何だよ…それ…
よく……わかった……
そんな風にしか聖知の事…
考えられないなら…もう遠慮はしねえ…」
「…………」
「聖知は人形なんかじゃねえっ!
感情だって…自分の意思だってちゃんと持ってる…
1人の人間だっ!
俺にとって…かけがえのない大切な女性です。
聖知の事…物としか扱えないなら…
家族だろうが…関係ねえ…!
ぜってえ…聖知は渡さない。
聖知を傷つける奴は俺は許さねえ!」
笠松の声がホール内に響くと、シーンと静寂が訪れる。
笠松の言葉に女性は言い返すことなく目を細めて睨みつけ、臆することなく笠松も睨み返す。
しばらく切迫した雰囲気の状態のまま沈黙が続くと、ホールの両階段を上った先から1人の拍手が響き渡る。