第35章 別れと不穏
「征十郎さん、ご無沙汰しております。一任というのは何かご事情でもございますか?」
「彼女はおそらくこの婚約の話はご存知ないかと思いますので…いきなり驚かしたくはありません。それに、高校卒業まで交際期間であれば、こう言った話は当事者同士で詰めて話をする事でより仲が深まっていくものではないでしょうか。」
私の一歩手前でさらに一礼して、臆する事なく目線を逸らさずに話す姿勢がとても好印象を覚え口元を緩めて笑む。
「そうですわね……では、転入のお話は聖知と征十郎さんにお任せ致します。不束な孫娘ですが…どうかよろしくお願い致します。」
「とんでもありません…理想の女性は…聖知さん以外ありえません。必ず幸せにします…。話を遮ってしまい申し訳ありませんでした。失礼します。」
征十郎さんは深々と私と赤司家の当主にお辞儀をして部屋を去っていく。
さて…娘の時は失敗したけど…ようやく苦労が報われるわね……
桐生からもアメリカに帰還するつもりは無くなったと連絡も来たし…問題なし。
その後、ビジネスの話を進めて話を終え赤司家を出ていく。
「紅羽様…日本に来日されたので聖知様の所へ向かわれますか?」
「……貴方…仕事中にプライベートの話を私にするの?」
「ッ…申し訳ありませんッ!」
「……まあいいわ…今気分がいいから…許してあげる。……そんな寄る時間なんかないわよ……桐生からの連絡では今のところ何ら問題ないし…空港に行ってちょうだい。帰国するわ。」
「かしこまりました……」
赤司家を出てから部下が聖知の話を持ち出してきた。本来ならクビにする所だが婚約話が上手く終えて気分が良いため嘲笑するように部下を許す。
聖知はいわば…洗脳状態で育てたようなもの……
私には逆らわないよう育ててきたんだから…婚約話も受け入れるでしょう…
私は口元を緩ませ満足そうに笑み空港までの道のりの景色を機嫌よく眺めていた。
ーー紅羽視点終了ーー