第34章 信頼の大きさ
「……ここ…座れよ……」
「………」
「聖知ッ……俺を……殴れ……」
「……は……?」
お父さんの後ろからついていくと近くにベンチがあり座るよう言われると隣にお父さんが座る。
何の話かわからないまま、笠松先輩からは最後まで交際は納得はしてくれなかったと聞いていたため、また別れろと言われるんじゃないかと思い身構えているといきなり殴れと言われて思考が停止する。
「理由はどうあれ……聖知を叩いたことに後悔…している……悪かった……だからまず……俺にも同じようにしろ…………」
「何言ってんの……そんな事できるわけ…」
そういうとお父さんは目を閉じていて自分の体に衝撃が来るのを待っているようだった。
私は、殴るつもりはなかったため、どうしようかと悩んでいると…いたずら半分でその辺に生えているエノコログサ(猫じゃらしみたいな草)でお父さんの鼻をくすぐるように動かした。
「ッ…Σッ…はッ…こらッ…な…ッ…何やってんだッ…!」
「お父さんこそ…何やってんの……私が同じように殴れば…スッキリすると思ってんの……」
お父さんは鼻をモゾモゾとさせていていつまでも痛みが起きないことに目を開けて私から草をひったくる。
「……ッ…そうは思わねえけど……」
「そりゃ痛かったよ…頬はジンジンするし腫れてたし…でも…私は…同じように苦しんでほしいわけじゃない……」
「叩いて悪かった……あと…あれも…聖知を責めた訳じゃない……そう思ってたわけでもない……つまり…怒りで勝手にだな……」
「……何の話……?」
いつもの父らしくなく語彙力から何かを謝ろうとしているのが伝わってくるが活気が全然なく首を傾げていると父が頭を掻きむしるようにいきなり立ち上がる。
「ッ…ウジウジすんのはやっぱり性に合わねえ……!
聖知…俺は……お前を傷つけた……
でも、本心じゃない…ッ…
怒りで頭が真っ白になって…
お前が苦しんできたのを知ってたのに…
ひどい事を言った……
悪かったッ……」
お父さんは私に向き直ると同じ背丈くらいまで屈んで両手を握り謝ってくれた。顔の表情からはすごく必死さが伝わってきて笠松先輩のことで少しムスッとしていたがお父さんの手を優しく握り返した。