爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇
第5章 悪意 中國山地
「別に。俺はいつもこうだろう?」
「違う。一昨日とは別人みたい」
そりゃ別人さ。兵介は心の中でそう愚痴った。今の彼は福原の山路兵介である。襟の固い服を着て、昼間なら山路大隊長と呼ばれるのだ。少し洒落を込んだ格好でフィアンセをエスコートする優男(やさおとこ)振りであった一昨日とは別人でなくてはならない。そもそも今漸く息をつけたのだ。真綾の様に気ままに電話をしてくるのとは違う。
ともあれ、それも兵介の事情だ。真綾は真綾で彼女自身の事情がある。
「プライベート気分ではないかな」
「そうなの? でも、終わったんでしょ?」
やはり、ちょっとだけ、不満げな声色だ。真綾は甘ったるい分、少し重い。兵介は経験則を持ち出して、やんわりと収めようとした。
「仕事は終わったよ。だけど、まだ気は抜けてないかな。昨日ならまだ会議中だったよ、この時間は」
「ふうん、そうなの」
真綾の声は大分灰がかかっている。経験上、これは良くない。そっけなく行き過ぎたか。兵介は少し焦り出した。
「まあ、なんだ。丁度終わった所だ。運が良かった」
「私と話すのって、そんなに手の掛かる、大それた話なわけ?」
「ああ、いや、そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて、何よ?」
兵介はきっと戦場ならこんな失策はしなかった。状況への認識不足、そして現有戦力の乏しさを鑑みずに言い訳という手段を採った事だ。異性への宥(なだ)めすかし、彼にその技能は乏しい。
「なんというか。ええっと」
「・・・・・・・・・・・」
真綾は沈黙している。これは拙(つたな)い手を打った。宥めないといけない。
兵介はまた下手を打った。
「…怒った?」
「もういい。お休み」
あっ、と声をつく前に通話が切られてしまった。兵介は思わず携帯を下ろして見詰めた。
電話はもう何も言って来ない。真綾は今頃、携帯をベットかどこかに投げて不満を吐き出しているだろう。やってしまった。一昨日の頑張りが無に帰った。
喫煙室は静まっている。それが妙に気に障って、
「ああ……、くそ」
こちらもこちらで悪態をついた。煙草の灰がいつの間にか膝へ落ちていたのも無性に頭に来た。