爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇
第5章 悪意 中國山地
「知っておける事に無駄な物なぞ有りはしない。その知が何かに引っかかるなら、実に有意義な事だ」
「そうかね。そりゃ殊勝な心掛けだ」
浅黒の口は少し、からかったような言い回しだった。
「七尾(ななお)城。七つの尻尾、ここら辺もそういう地名だった筈だ。広島のおっかない連中が攻めてくるのに対抗して城を築いたそうだ」
「その辺り、知る事を皆聞かせろ。役に立つ」
「生憎だが、俺はここまでしか知らん。後で戦史室の連中を紹介してやるから、そいつに聞いとくれ」
「ふん。まあ、いいだろう」
白皙の男はそう言うと、石組みの階段を登り始めた。浅黒の男も後に続く。
「随分と早足だね、君は。ばてるぞ?」
「馬鹿にしているのか? 俺が誰だかわかっているのか?」
「慣れない地だ。先達の言う事は聞いておけ」
白皙は振り返らずに足を前へと踏み込み続けた。変わりのない歩き振りに浅黒い男はやれやれといった素振りをしてそのまま後ろへついて行った。白皙の男は後ろの仕草を感じた。
「……殆ど知らぬ土地なのだろう?」
「まあ、それもそうか」
浅黒の男はそう吐いた。
幾重にも登る道。足を上げて踏み込むにつれて、固い足場が靴の裏から圧迫して来る。だが、白皙も浅黒の肌のいずれも何ら変わった様子もなく登り続けている。
浅黒の男は後方を見やった。後ろからは幾人かの若い男達が歩いている。白皙の男よりも少し肉の色をした金髪碧眼の青年と背の低い青年が続き、その後ろから最後尾には浅黒の配した若手の衆が続いていた。
山の上から風が下りてきた。夏の近しい頃。まだ、風は熱を知らず、汗ばむ肌を心地良くしていった。
「どうです、何か気になりますかい?」
「風は悪くない」
「そうです?そりゃ良かったよ、ゲリッチ隊長。御満足頂けたなら山陰陽の人間として鼻が高いってもんだ」
「何も知らないのだろう、シンスケ ノベハラ?」
「まだ言うんかい、隊長さんよ」
山陰陽都督府陸軍の師団長、延原新助(のべはら しんすけ)は対するセルビア人傭兵隊長ジャルコ ゲリッチ(Zarko Geric)に少なからず辟易した。
「地も時の重なりも知らずに視察をするのは愚かしい。肝に銘じてほしいな」
「そうだな。肝に灸でも吸えておこう」
延原はそう言って、苦々しく笑った。
「もうすぐ、天辺か」