第1章 眠れるリング
サイの執事が、部屋の外のテラスに昼ごはんの用意をする。
『どうぞ、皆様。良いお天気ですので、此方でお食事を。
みづき姫に、皆様に楽しい声を届けてあげるのは如何でしょう』
どうしても塞ぎがちなリドを、無理やり促しながら、執事が皆を呼ぶ。
「ありがとうございます。さぁ、みんな、頂きましょう」
トトリがアルマリと、トルマリを携えてテラスへと出る。
『早く…みづきと一緒に食事がしたいな…』
アルマリが消え入るような声で呟くと、
『もう。今執事さんが、みづきに楽しい声を届けてって言ったでしょ?
そんな泣きそうな声出しちゃダメだよ!ね、ティーガ』
「そうだぞ!リドも、いつまでもこの世の終わりみたいな顔すんな。
ナビが大丈夫って言ってたろ?早くこっち座れよ!」
優しいトトリと、賑やかな二人のおかげで、食事は和やかに進んでいく。
ナビは、その様子をみづきのベッドの上で見ながら、
フワフワとした手でみづきの頬に触れた。
みづき…もう朝だよ?お寝坊さんだね。
早く起きて、一緒に遊ぼう?
みづき?少し無理をさせちゃったかな…。
まだ、起きられない?
みづき。みんな心配してるよ。
リド王子も…早く起きておいで?
ナビは誰にも聞かれないように、そっとみづきの耳元で囁く。
すると、今まで一切何の反応も無かったみづきの閉じられた目から
一筋の涙が溢れた。
ナビは、ハッとすると、慌てて声をあげる。
『どなたか、すぐにお医者様を!!』
その声を聞いて、執事はすぐに医師を呼びに行き、みんながナビの元へ集まる。
「どうした?!みづき?!」
真っ先に駆けつけたリドは、みづきの頬に涙を見つけ、
「みづき!みづき!」
と、大きな声で呼んだ。
『ん…うぅ…』
声にならない声がした後、みづきは閉じた眼を更にギュッとつむると、
ゆっくり半分ほど瞼を開け、まぶしそうに顔をしかめた。
『お……い…ちゃ……』
「みづき姫、何ですか?」
ナビが名前を呼ぶと、今度はハッキリと、
『おにいちゃん…』
みづきの声が響いた。